遺伝的な異常がない人では、食事から摂る鉄が多くなっても、ヘプシジンというホルモンの働きで鉄の吸収量が正常な範囲に保たれます。そのため、食事からの鉄で鉄過剰症になるリスクは無視できるとされています。ただし、サプリメントや鉄を強化した食品を摂りすぎると、健康障害が起こる可能性があります。
この記事では厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)などをもとに、鉄を摂りすぎたときに起こることをまとめます。
鉄の耐容上限量は設定されなくなった
2025年版では、すべての年齢で鉄の耐容上限量(これ以上摂ると健康障害のリスクが高まる量)の設定が見送られました。遺伝的な素因がなく、お酒を多く飲まない健康な人で、鉄の摂りすぎが胃腸の症状以外の健康障害を起こすという明確な証拠が見当たらないためです。
ただし、これは鉄をたくさん摂ってもよいという意味ではありません。貧血の治療などを目的とする場合を除き、推奨量を大きく超える鉄の摂取は控えるべきとされています。
鉄の摂取基準については鉄(鉄分)の機能・役割と食事摂取基準を確認してください。
鉄を摂りすぎたときに起こること
鉄が体の組織にたまりすぎると、細胞が傷つき、様々な臓器の障害が起こります。体にたまった鉄は肝臓がんなどのリスクを高めるとされ、特に慢性の肝臓の病気を悪くする影響が大きいとされています。また、体に蓄えられた鉄の量が多いことが、骨量が減るのを早める原因になることも示されています。
サプリメントや鉄を強化した食品を摂りすぎると、便秘、胃腸の障害、鉄の沈着、亜鉛の吸収が妨げられることなどが起こる可能性があります。アルコール性の肝障害がある人では、鉄を摂りすぎると肝臓に鉄がたまって症状が悪化すると考えられています。
生活習慣病との関係
ヘム鉄(肉や魚に多い鉄)を多く摂ると、メタボリックシンドロームや心臓・血管の病気のリスクが上がるという報告や、2型糖尿病のリスクが高まるとする分析があります。また、高齢の女性を対象にした研究では、鉄のサプリメントを使っている人で死亡率が上がっていました。
体に鉄がたまる病気(ヘモクロマトーシス)
2025年版で耐容上限量が見送られたのは、遺伝的な素因がない健康な人についての判断です。MSDマニュアル家庭版によると、遺伝性のヘモクロマトーシスは鉄が吸収されすぎる病気で、体にたまった鉄が肝臓・心臓・膵臓などの臓器を傷つけます。北欧系の人に多いタイプがあり、症状は中年以降にゆっくり現れることが多いとされています。
主な症状は、肌が黒っぽくなる、手などの関節の痛み、疲れやすさなどで、肝臓がんのリスクも高まります。治療は、血液を抜いて体の鉄を減らす瀉血(しゃけつ)がふつうです。お酒は鉄の吸収を増やし、肝硬変のリスクも高める可能性があるため、医師から控えるよう指示されることがあります。
検査と治療
同じMSDマニュアル家庭版によると、血液検査で鉄、フェリチン、トランスフェリンを測り、フェリチンとトランスフェリン飽和度(トランスフェリンのうち鉄と結びついている割合)が高いときは、ふつう遺伝子検査で診断を確かめます。兄弟姉妹、親、子どもも、体の鉄の量を調べる検査を受ける必要があるとされています。
瀉血は、はじめは週1回かときに隔週で、1回に約500mLの血液を抜きます。値が正常になるまで続け、その後も定期的に行います。食事は、鉄を含む食品も含めてふつうの健康的な食事でよいとされています。
遺伝性のほかに鉄がたまる場合
MSDマニュアル家庭版の「鉄過剰症の概要」によると、体に鉄がたまる原因には、ヘモクロマトーシスのほかに、輸血を繰り返すこと、鉄を含む錠剤を摂りすぎること、赤血球が大量に壊れることがあります。
サプリメントで摂るときの注意
鉄が不足していない人が鉄の摂取量を増やしても、貧血の予防にはつながりません。鉄が不足していない人が、食事に加えてサプリメントなどで鉄を摂り続けることは控えるべきとされています。
鉄欠乏や鉄欠乏性貧血の場合は鉄を補う必要がありますが、医師の指示に従って行うもので、自分の判断でサプリメントを使って補うことは控えるべきとされています。貧血でない妊婦・授乳婦が鉄のサプリメントを使うことも控えるべきとされています。
米国オレゴン州立大学ライナス・ポーリング研究所の解説によると、鉄欠乏の治療に使う量でも、胃腸の刺激、吐き気、吐く、下痢、便秘が起こることがあり、便の色が黒っぽくなることもよくあります。液状の製品は歯に一時的に色がつくことがありますが、薄めて飲むと防ぎやすくなります。空腹時を避けて食事と一緒に飲むと、胃腸の症状が和らぐことがあるとされています。鉄剤を処方されている人は、飲み方を医師や薬剤師に確かめてください。
同じ解説は、鉄が不足するおそれのない男性や閉経後の女性には、総合ビタミン・ミネラル剤でも鉄を含まないものを勧めています。総合ビタミン剤を選ぶときは、鉄が入っているかも確かめましょう。一緒に飲むと吸収が下がる薬については、鉄の効果の記事の「サプリメントで摂るときの注意」で説明しています。
小さな子どもでは鉄剤や鉄のサプリメントを誤って飲むと急性の鉄中毒を起こすことがあり、重い臓器の障害や死を招くおそれがあります。子どもの手の届かない所に保管してください。
鉄を含む栄養機能食品は、1日に摂る目安の量に含まれる鉄が1.95~10mgの範囲に決められています。注意の表示として「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。一日の摂取目安量を守ってください。」と書くことになっています(国立健康・栄養研究所)。
鉄剤やサプリメントを誤って飲んだとき(急性の鉄中毒)
MSDマニュアル家庭版によると、急性の鉄中毒は、鉄のサプリメントなどの錠剤を一度に多く飲んだときに起こります。鉄を含む大人用の総合ビタミン剤や妊婦用のビタミン剤でも起こり、特に幼児が誤って飲んだときが危険で、5歳未満の子どもでは命にかかわる中毒の原因になることがあります。ライナス・ポーリング研究所の解説によると、体重1kgあたり鉄として20~60mgで急性の症状が出ることがあります。
症状は、時間がたつにつれて次のように変わっていくとされています。
- 飲んでから6時間以内:吐く、血を吐く、下痢、おなかの痛み、機嫌が悪くなる、眠くなる。重いときは呼吸や脈が速くなる、意識がなくなる、けいれん、血圧の低下
- 6~48時間ごろ:一時的によくなったように見えることがある
- 12~48時間ごろ:ショック、発熱、出血、黄疸、肝臓がうまく働かなくなる(肝不全)、けいれん
- 2~5日ごろ:肝不全が進み、出血や血液が固まりにくくなることで亡くなることがある
- 2~5週間ごろ:胃や腸が傷あとで狭くなる、肝臓が硬くなる(肝硬変)
診断は飲んだもの・症状・血液中の鉄の濃度などから行われます。重いときや血液中の鉄の濃度が高いときは入院し、鉄と結びついて尿に出す薬(デフェロキサミン)を点滴することがあります。途中で一時的によくなったように見える時期があるので、症状が軽く見えても、子どもが鉄剤やサプリメントを飲んだかもしれないときは、すぐに医療機関に相談してください。
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