鉄(鉄分)の効果・効能と不足欠乏の症状

健康辞苑アイコン 鉄(鉄分)

鉄(鉄分)は必須ミネラルになります。体内の鉄はその約70%が血液中の赤血球をつくっているヘモグロビンの成分になっていて、約25%は肝臓などに貯蔵されています。

赤血球の中に含まれるヘモグロビンは鉄のイオンを利用して酸素を運搬しており、ポルフィリンという有機化合物と錯体を形成した状態で存在します。ヘモグロビンと酸素分子の結合は弱く、筋肉のような酸素を利用する組織に到着すると容易に酸素を放出する作用があります。ヘモグロビンは、呼吸でとり込んだ酸素と結びつき、酸素を肺から体のすみずみまで運ぶという働きをしています。このため、鉄は酸素の運搬や細胞呼吸において重要な役割を担っているといえます。

また、体内にはフェリチンといった鉄を貯蔵する機能を持つタンパク質の一種があります。その核は鉄(Ⅲ)イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオンからなる分子あたり4500個もの鉄イオンを含んで体内に鉄を蓄積しています。体内で鉄が不足した場合、この貯蔵された鉄が使用されます。

鉄は吸収率が約15%程度なので一般の栄養分よりも欠乏しやすいのが特徴です。このため、欠乏しやすく、鉄欠乏症としては貧血、無力感、食欲不振などが起こります。

※吸収率のデータは鉄の種類や国によって異なります。ここではFAOやWHO が採用している吸収率を使用しました。

 

鉄の摂取基準などは必須ミネラル鉄(鉄分)の機能・役割と食事摂取基準を確認してください。

 

酸素・二酸化炭素の運搬作用(貧血・酸素不足の予防効果)

鉄を構成要素にもつヘモグロビンは肺など酸素濃度の高い場所で多くの酸素を受け取り、酸素が消費され酸素濃度の低い各種臓器へと酸素を運搬する働きがあります。酸素を受け取ったヘモグロビンを酸素ヘモグロビンといい、酸素を放出したヘモグロビンを還元ヘモグロビンといいます。ヘモグロビンは酸素濃度の低い場所や二酸化炭素濃度の高い場所で酸素を放出する作用があります。また、二酸化炭素の一部は酸素との結合とは異なる部位でヘモグロビンと結合して肺まで送られ体外へと排出されます。このため、鉄は貧血などといった酸素が不十分な状態を改善する効果があります。

 

貧血の予防効果(造血効果)

鉄は赤血球を作るのに必要なヘモグロビンの原料になります。その約70%が赤血球の中のヘモグロビンの構成元素として存在しています。ヘモグロビンは肺から酸素を受け取り、体内を循環して各組織に酸素を送り届ける役割があります。赤血球は骨髄中の造血幹細胞が分裂・成長していくことで作られます。分裂の過程では葉酸とビタミンB12が関わり、成長の過程では鉄とビタミンB6が関わります。このため、鉄が不足すると成長時に赤血球の作成が十分に進まないため、鉄欠乏性貧血を引き起こす可能性があります。

また、鉄は筋肉中のミオグロビンというたんぱく質の構成要素として存在します。このミオグロビンは血液中の酸素を筋肉に取り込む働きがあるため、鉄が不足すると細胞は様々な代謝をスムーズに行うことができず、疲れやすい体になったり、免疫力が低下したり、貧血になりやすくなったりします。

 

代謝を正常にする効果

小腸から吸収された鉄は鉄輸送たんぱく質であるトランスフェリンと結合して血液中を移動します。そして骨髄へと運ばれ赤血球のもととなる赤芽球上にあるトランスフェリン受容体と結合して取り込まれ、赤血球が作られます。赤血球の寿命は約120日といわれており、古くなったり劣化した赤血球が脾臓で分解され、分離した鉄はいったんフェリチンとなって貯蔵されす。貯蔵されたフェリチンは必要に応じてまた赤血球の合成に使われます。このように赤血球の材料として使われる鉄は赤血球が破壊された後も再び赤血球の材料として再利用されます。

フェリチンの貯蔵がなくなった場合、ヘモグロビンが減少するため、貧血の状態になります。その際に脳の中にあるセロトニンといった神経伝達物質も正常には生成されなくなってしまいます。鉄はセロトニンの材料であるアミノ酸のトリプトファンには変化の過程で必要で、セロトニン不足はうつ病の原因の一つのため、鉄が不足した場合にうつ病やそれに似た症状がでる可能性があります。また、神経伝達物質が正常に働くためには十分な酸素が必要であるため、酸素不足によりイライラ感などをおこす可能性があります。

その他、鉄を含む酵素であるシトクロムなどが電子伝達系という酸化還元反応をすることでATP(アデノシン三リン酸)を生成します。ATPは体内に広く存在しており、血管拡張作用や臓器の血流を増加したり組織の代謝を活性化させる効果があります。

 

抗菌効果

多くの細菌は増殖などに鉄が必要でです。このため、細菌を増殖されせる作用があるといえます。ただし、鉄が必要な成分は体内でも多くあり、鉄がなけれればいいといった考えにならないよう注意してください。例えば、下記に記載するラクトフェリンやヘプシジンがそれにあたります。

ラクトフェリン

鉄と結合している成分にラクトフェリンがります。ラクトフェリンは、母乳・涙・汗・唾液などの外分泌液中に含まれる糖タンパク質です。このラクトフェリンは強力な抗菌活性を持つことが知られています。多くの細菌は増殖などに鉄が必要でですが、ラクトフェリンは鉄を奪い去る作用があるため、細菌の増殖を抑制する効果があります。

ヘプシジン

ヘプシジンは肝臓で産生される一種のペプチドホルモンであり、鉄代謝制御を行っています。ヘプシジンは腸からの鉄の過剰な吸収を抑制する作用があります。ヘプシジン産生障害は鉄過剰症を引き起こす。多くの病原体はその増殖に多量の鉄を要するため、ヘプシジンが血清鉄濃度を低下させることは炎症の原因となる菌の増殖を抑制して抗菌作用もあるといえます。

 

コラーゲンを生成する効果

鉄はコラーゲンの合成にも必要な栄養素です。コラーゲンは線維性のタンパク質ですが、その合成の際に鉄とビタミンCが必要になります。このため鉄はコラーゲンでできている皮膚、髪、目、筋肉、血管壁、骨などの体の組織の形成に効果があります。

 

抗酸化作用(老化を予防する効果)

鉄を含む酵素であるカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼは活性酸素を分解する働きがあります。このため、活性酸素による老化を予防する効果があります。

 

免疫機能を維持する効果

体内に侵入した細菌などを食べて殺してしまう役割のある白血球の一種の好中球があります。体内の鉄分が不足すると好中球の殺菌能力が低下します。このため、鉄は免疫機能の維持に効果があります。

 

疲労回復効果

鉄は細胞に酸素と栄養を届けるヘモグロビンの材料であるため、運動時などの多くの酸素を必要とするときに必要不可欠な成分となっています。また、鉄には運動時の乳酸の上昇を抑制する効果も報告されており、疲労の回復や持久力維持に効果があります。

 

鉄の不足・欠乏の症状

次の傾向や病気・症状に心当たりのある方は鉄が不足している可能性があります。

貧血

鉄の不足により以下の症状が出る場合があります。月経などの生理作用がある女性は特に注意が必要です。

めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、疲れやすい、疲労,倦怠感、頭痛、顔色が悪い、寒さを感じやすい、耳鳴り、食欲不振など

その他、以下の症状が出る場合があります。

異常食(異食症)
せんべい、鉛筆などの硬いものを噛みたくなる。

爪の異常
爪が白い、扁平化、柔らかい、割れやすい、二枚爪。

氷食症(体温調節ができないことによる症状)
氷を好んで食べる、持久力の低下、記憶力の低下、寝起き寝つきの悪さ、食欲低下などの鉄欠乏症状や、顔色不良、動悸、息切れなどの貧血症状。

神経過敏
注意力の低下、イライラ感、脚がむずむずして眠れない、脚がつりやすい。

うつ病(血行不良・セロトニン不足による症状)
抑うつ感、気分低下、またはうつ病に似た症状。

その他
体にアザがよくできる、歯茎の出血、抜け毛などのコラーゲン減少による肌・髪などのトラブル
むくみがある
のどの不快感、のどがつまる感じがする、嚥下障害
まぶたのうらが白い

 

 

鉄の不足時の病気については鉄(鉄分)の不足と生活習慣病や病気を確認してください。

鉄の過剰摂取については鉄(鉄分)の過剰摂取による副作用(過剰症)を確認してください。

 

 

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