ビタミンB1(チアミン)は、食事からとった糖質などをエネルギーに変えるために必要な補酵素です。神経や心臓が正常に働くためにも欠かせません。この記事では、ビタミンB1が不足すると起こる病気(脚気、ウェルニッケ・コルサコフ症候群)とその検査・治療、糖尿病・心不全などとの関係をまとめます。
数値と考え方は厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)に基づき、症状や原因はMSDマニュアル家庭版「チアミン欠乏症」と国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報(ビタミンB1)で確かめています。
ビタミンB1の不足で起こる病気
ビタミンB1が不足すると、糖質を主なエネルギー源にしている神経や脳、心臓に障害が起こり、神経炎などが生じます。代表的な欠乏症が、脚気とウェルニッケ・コルサコフ症候群です。
脚気
精白米を主食にしてきたアジアの国々では、脚気が知られています。脚気には、主に神経や筋肉が障害されるものと、主に心臓が障害されるものがあります。
- 神経・筋肉の障害:全身のだるさ、手足のしびれや足先の焼けるような感じ、こむら返り、筋力の低下、腱反射(ひざをたたいたときの反射)の消失などが起こります。
- 心臓の障害:脈が速くなり、動悸や心臓の拡大が起こります。進むと心不全になり、むくみや血圧の低下から命に関わることがあります。
ビタミンB1が不足している母親の母乳で育つ赤ちゃんに、生後3~4週ごろ、突然の心不全などを起こす脚気が起こることもあります。
ウェルニッケ・コルサコフ症候群
お酒を多く飲む人に多い病気です。ウェルニッケ脳症では、意識の混乱、歩くときのふらつき、眼球の揺れや眼球を動かす筋肉のまひが起こり、すぐに治療しないと昏睡や死に至ることがあります。慢性化するとコルサコフ症候群になり、最近の出来事を覚えられない、作り話で記憶の抜けを埋めるといった症状が残ります。
ウェルニッケ脳症は、重いつわり(妊娠悪阻)や肥満の手術(減量手術)のあとに吐き続けた人にも起こります。重いつわりの177例をまとめた系統的レビュー(2019年)では、65%の人に慢性的な認知の障害が残りました。減量手術のあとの84例をまとめた系統的レビュー(2008年)では、ほぼ半数で回復が不完全で、記憶の障害や歩きにくさが残ることが多いと報告されています。
ビタミンB1はブドウ糖を使うときに必要なため、ビタミンB1が足りない人にブドウ糖の点滴だけを行うと、不足が悪化することがあります。そのため医療機関では、お酒を多く飲む人などには、ブドウ糖を含む点滴の前にビタミンB1を投与します。
ビタミンB1欠乏症の検査と治療
MSDマニュアル家庭版によると、ビタミンB1の不足をはっきり確かめられる簡単な検査はありません。脚気やウェルニッケ脳症は、症状と診察から疑い、ビタミンB1を補って症状が良くなれば診断が確定します。
治療では、ビタミンB1を補います。ふつうは飲み薬で、重いときは静脈から補います。ビタミンB1が足りない人はほかのビタミンB群も不足していることが多いため、総合ビタミン剤を使うこともあります。お酒が原因のときは、お酒をやめることも必要です。ウェルニッケ・コルサコフ症候群は急いで治療する病気で、多い量のビタミンB1をすぐに注射で補います。
多くの人は治療で完全に回復します。ただし、ウェルニッケ・コルサコフ症候群では、脳の障害が残る人もいます。
生活習慣病などとの関係
糖尿病
糖尿病の人は、血液中のビタミンB1濃度が低い傾向があるという報告があります。20の研究をまとめたメタアナリシス(2023年)でも、糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて血液中のビタミンB1が低く、尿にたんぱく(アルブミン)が出ている人ではさらに低い結果でした。著者らは、糖尿病の人は必要量が多い可能性があるものの、よく計画された研究で確かめる必要があるとしています。
2025年版では、ふつうの食品から摂れる範囲のビタミンB1と糖尿病の発症との関係を示した報告は見当たらないとして、生活習慣病の予防のための目標量は決められていません。
心不全
心不全の人では、ビタミンB1が不足している人の割合が多いことが分かっています。9つの研究をまとめたメタアナリシス(2015年)では、心不全の人がビタミンB1不足になる割合は、心不全でない人のおよそ2.5倍でした。原因として、尿を増やす薬(利尿薬)の使用、食事の変化、吸収や代謝の変化が考えられています。
ビタミンB1を補うと心臓の働きや症状が良くなる可能性を示した小規模な研究がありますが、治療として役立つかどうかは、まだ研究が必要とされています。心不全の治療を受けている人は、自己判断でサプリメントを使わず医師に相談してください。
ビタミンB1が不足しやすいとき
ビタミンB1の不足は、食事から摂る量が長い間足りないときや、糖質の多い食品やお酒を多くとって必要量が増えたときに起こりやすくなります。ふだんの摂取量が推定平均必要量を下回る状態が数週間続くと、欠乏症のリスクが高まると考えられています。
このほか、妊娠・授乳、激しい運動、発熱、甲状腺機能亢進症では必要量が増え、長く続く下痢や肝臓の病気では吸収や利用がうまくいかなくなります。症状と不足しやすい人の詳しい説明はビタミンB1不足の症状を確認してください。
予防のための食事
ビタミンB1は豚肉、豆類、玄米などの穀類の胚芽、ナッツ類などに多く含まれます。精白米や白いパンが中心の食事では不足しやすいため、主食に胚芽米や玄米、全粒粉のパンを取り入れたり、おかずに豚肉や豆類を加えたりするとよいでしょう。
ビタミンB1の摂取基準についてはビタミンB1の機能・役割と食事摂取基準を確認してください。
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