脂質と予防-生活習慣病との関連(n─3系/n─6系/飽和脂肪酸)

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脂質と生活習慣病

低脂質

低脂質/高炭水化物食は食後血糖値及び空腹時の中性脂肪値を増加させ、血中HDLコレステロール値を減少させます。健康な人において、食事をしても動脈硬化症、肥満、糖尿病が増加することを示す報告はありませんが、長期間にわたってこのような血中脂質パタンが続くと冠動脈性心疾患のリスクが高くなります。

アメリカ・カナダの食事摂取基準では、脂質又は炭水化物のエネルギー比率と、血中HDLコレステロール、総コレステロール/HDLコレステロール、トリアシルグリセロール(中性脂肪)のそれぞれの関係を回帰分析し、これらの血中濃度を適正なものにするには、脂肪エネルギー比率20%E以上が良いとしています。また、極端な低脂質食は脂溶性ビタミン、特にビタミンAやビタミンEの吸収を悪くし、食品中の脂質含量とたんぱく質含量との正相関のために、十分なたんぱく質の摂取が難しくなる可能性もあるとされています。

 

高脂質

高脂質食/低炭水化物食は低脂質食/高炭水化物食に比べて、HDLコレステロール値が増加し、空腹時の中性脂肪値は減少するが、LDLコレステロール値は増加し、食後遊離脂肪酸値や食後中性脂肪値が増加します。さらに、高脂質食/低炭水化物食は穀類に含まれるミネラルが不足し、たんぱく質摂取量が多くなるため、総死亡率、2型糖尿病罹患の増加が考えられています。

研究では炭水化物に比し脂質の多い食事は総死亡率を1.3倍増加させた報告があります。脂質の種類により総死亡率が影響を受ける可能性が示唆された研究もあります。他の研究では動物由来の食品摂取の多い群では総死亡率が増加したが、植物由来の食品摂取が多い群では総死亡率は減少した報告もあります。

 

肥満

総脂質摂取量を減少させると体重が減少することは主に非肥満者を対象とした研究でも示されています。総脂質摂取量を1%E減少させると、0.19kgの体重減少が確認されています。しかし、肥満者で血中インスリン濃度が高くインスリン抵抗性が強い群では、低炭水化物食(脂質30~35%E、炭水化物40%E)の方が低脂質食(脂質20%E、炭水化物55~60%E)よりも体重減少効果は強いことに注意が必要です。日本人のような肥満の少ない集団では、脂肪エネルギー比率が高くなると、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、さらに冠動脈疾患のリスク増加が考えられています。

更年期以降の女性を対象とした研究では、総脂質摂取量が減り体重減少が見られた場合、糖尿病発症の有意な減少が確認されています。高脂質食は飽和脂肪酸摂取量を増加させ、飽和脂肪酸は血漿LDLコレステロール濃度を上昇させ、冠動脈疾患のリスクを高くします。このようなことから、脂肪エネルギー比率は30%未満が適切であるとしています。脂肪エネルギー比率30%未満で血漿総コレステロール、LDLコレステロール、トリアシルグリセロール、総コレステロール/HDLコレステロールの減少、体重の減少が認められています。

 

飽和脂肪酸と生活習慣病

心血管疾患

冠動脈疾患との関連では、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、冠動脈疾患罹患ハザード比は0.87に低下したが、一価不飽和脂肪酸に置き換えた場合1.19に増加、炭水化物に置き換えると1.07の増加しています。飽和脂肪酸摂取量と心筋梗塞罹患との間に強い関連が認められない理由として、飽和脂肪酸の種類により効果が異なる可能性や飽和脂肪酸を含む食品により冠動脈疾患罹患リスクが異なることが考えられています。乳製品由来の飽和脂肪酸摂取は心血管疾患を予防しますが、肉由来の飽和脂肪酸摂取は心血管疾患のリスクとなっています。日本人45~74歳を対象とした研究では、飽和脂肪酸摂取量と心筋梗塞罹患に正の関連が認められ、飽和脂肪酸摂取量が9.6g/日に比べ、飽和脂肪酸摂取量が16.3g/日で心筋梗塞罹患ハザード比が1.24に、飽和脂肪酸摂取量が24.9g/日は1.39に増加しました。欧米での多くの介入研究では、飽和脂肪酸摂取量を減少させると、冠動脈疾患罹患率、動脈硬化度、LDLコレステロール値の減少することが示されています。例えば、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換え、多価不飽和脂肪酸摂取量(n─6系脂肪酸とn─3系脂肪酸の両方を含む)を平均14.9%Eに増加した場合、コントロール群(多価不飽和脂肪酸摂取量は平均5.0%E)に比べて、死亡も含む心筋梗塞罹患の相対危険が 9%減少しています。

 

糖尿病

研究で糖尿病罹患と飽和脂肪酸摂取量との間に正の関連が示されているが、BMIで調整すると飽和脂肪酸摂取量と糖尿病罹患との関連は認められなります。一方、糖尿病罹患の原因の一つであるインスリン抵抗性と飽和脂肪酸摂取量との関連を調べた研究では、BMI調整後でも飽和脂肪酸摂取量とインスリン抵抗性の正の関連が認められています。他の研究でも飽和脂肪酸の多い食事はインスリン抵抗性がありました。一価不飽和脂肪酸と比較した介入研究では、飽和脂肪酸摂取量の増加により、インスリン感受性が低下し、インスリン分泌量が増加しました。これらの結果は、飽和脂肪酸摂取量の増加により、インスリン抵抗性を生じ、糖尿病罹患が増加する可能性を示しています。

 

脳卒中

日本人を対象にした多くの研究で飽和脂肪酸摂取量が少ない人では脳卒中、特に脳出血死亡又は罹患の増加が認められています。最近発表された研究では、飽和脂肪酸摂取量と脳出血やラクナ梗塞罹患との間には直線的な関連が認められ、飽和脂肪酸摂取量が多いほど脳出血やラクナ梗塞罹患は減少しています。しかし、動物実験で飽和脂肪酸摂取量を増加させると脳出血が予防できることは示されていません。このため、飽和脂肪酸摂取量の減少が原因で脳出血が増加するかは不明です。研究では、動物性たんぱく質摂取量の調整は十分されておらず、脳出血等の罹患増加の原因は飽和脂肪酸摂取量の減少に伴う動物性たんぱく質摂取量減少による可能性も考えられます。実際、乳製品摂取量と脳卒中との関連は、乳製品最大摂取群は最小摂取群に比較し、脳出血の相対危険は0.75に減少しています。

 

 

n─6系脂肪酸と生活習慣病

心血管疾患

冠動脈疾患に関して、血中脂質を比較した欧米での介入研究では、炭水化物の代わりに多価不飽和脂肪酸、主にn─6系脂肪酸を摂取すると、炭水化物の代わりに他の脂肪酸を摂取した場合に比べ、最もLDLコレステロールが低下する結果になりました。また、飽和脂肪酸の代わりにn─6系脂肪酸を摂取してもLDLコレステロールは低下します。しかし、他の観察研究の結果は一致していません。

研究ではリノール酸摂取量の最高分位(7.0%E)は冠動脈疾患罹患リスクが最も低いが、最近の研究ではn─6系脂肪酸摂取量との関連は認められていません。多くの介入研究で、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、飽和脂肪酸に比べて冠動脈疾患罹患は減少するが、たんぱく質や炭水化物を多価不飽和脂肪酸に置き換えた介入研究が行われていないため、冠動脈疾患罹患の減少が飽和脂肪酸減少によるものか、多価不飽和脂肪酸増加によるものか明らかではないのが現状です。2013年に発表された介入研究はn─3系脂肪酸とn─6系脂肪酸の効果を区別して解析しており、n─3系とn─6系脂肪酸の混合脂質摂取は心筋梗塞による死亡を19%低下させたが、リノール酸のみだと33%の増加が報告されています。2010年に発表された介入研究では、死亡例のみならず非致死性心筋梗塞も加えて解析されており、n─3系とn─6系脂肪酸の混合脂質摂取は心筋梗塞の罹患リスクを22%低下させたが、n─6系脂肪酸のみだと13%の増加が認められています。

 

脳卒中

日本人の脳卒中を対象とした研究では血清脂質中のリノール酸比が34%の群(リノール酸摂取量でおよそ13.3g/日に相当)は、22%の群(リノール酸摂取量でおよそ9.5g/日に相当)と比較し、脳卒中の発症のオッズ比が0.43に低下していたとしています。しかし、n─6系脂肪酸摂取量と脳梗塞罹患率を調べた研究では関連は認められていません。

 

糖尿病

植物油摂取量と糖尿病罹患との間に弱い負の関係が見いだされているが、植物油に含まれる脂肪酸の種類については明らかにされていいません。最近の研究では、n─6系脂肪酸摂取量と糖尿病罹患との関連は認められていません。

 

ガン

ガンに関しては、n─6系脂肪酸摂取量と乳がん罹患にn─6系脂肪酸摂取量が増えれば乳がん罹患になる確率が上がる関連が認められています。

 

n─3系脂肪酸と生活習慣病

心血管疾患(α─リノレン酸)

2012年に発表された観察研究では、α─リノレン酸摂取量と心血管疾患罹患(脳卒中も含む)との間には弱い負の関連が認められ、α─リノレン酸摂取量の最大摂取群は、最小摂取群に比べてリスクの平均10%の減少、血中や組織でのα─リノレン酸量が最大の群は最少群に比べて有意ではないが、平均14%の減少が示されました。1g/日のα─リノレン酸摂取量の増加は心筋梗塞による死亡を10%減少させることが推定されています。α─リノレン酸摂取量増加による心血管疾患罹患の減少はα─リノレン酸自体と代謝産物であるEPAやDHAによると考えられています。日本人高齢者を対象とした介入研究では、α─リノレン酸摂取量を3g/日、10か月間増加させ、1日当たりの摂取量を4.8gにしても、LDLコレステロール、酸化LDLの増加は認められておらず、その他主要な血液検査での異常も認められていません。

 

心血管疾患(EPA、DHA)

冠動脈疾患に関して、EPAとDHAの多くの研究結果があります。しかし、論文の選択方法により結果は異なっています。ある研究では、EPAとDHA摂取群で平均18%の冠動脈疾患罹患の減少、平均9%の心臓死減少が確認されましたが、他の研究では、無作為化盲検比較試験で二次予防のみの研究を対象にすると、心血管イベント減少効果は認められなかったとしています。効果が見られなくなった原因の一つにスタチンを服用している人が増えて、EPAとDHAの効果が相対的に弱くなったことが考えられています。日本人を対象にした観察研究では、EPAとDHAの摂取量が2.1g/日の群はEPAとDHAの摂取量が0.3g/日に比べて、67%もハザード比が減少したとしています。さらにEPAとDHAの摂取量が0.9g/日においても有意差が認められ、39%もハザード比が減少したとしています。心不全に対しても効果が認められています。また、日本人を対象とした介入研究で、総コレステロール値が250mg/dL以上を示す9,326人に1.8g/日のEPAを投与すると、EPAを投与しないコントロール群(9,319人)と比べて、一次、二次予防併せて5年間で19%の冠動脈疾患罹患の減少しました。

 

妊娠(α─リノレン酸)

血中α─リノレン酸濃度と卵子機能に負の関連が認められ、α─リノレン酸が多いと妊娠可能性が低下する可能性もあります。

 

脳卒中(EPA、DHA)

2012年の観察研究では、週2~4回魚を摂取する群は週1回以下の群に比べて脳卒中リスクが平均6%減少、魚摂取量が最大群で最小群に比べて脳出血罹患が平均19%減少していました。しかし、塩漬けの魚を食べると、脳出血罹患が2倍増加する報告があるので、魚の調理法には注意が必要です。一方、介入研究ではEPAとDHA投与により、脳卒中罹患の減少は認められていません。日本人を対象とした介入研究では、1.8g/日のEPAを投与しても、脳卒中の既往のない人では脳卒中の減少は認められていませんが、脳卒中患者では脳卒中再発の相対危険の20%減少が認められています。

 

糖尿病(EPA、DHA)

糖尿病に関する研究では魚摂取量と糖尿病罹患との関連はありませんでしたが、アジアにおいて負の関連が認められています。日本人でも男性において小型の魚(さば、さんま、いわし、うなぎ)を多く摂取する群で、糖尿病罹患リスクの低下が認められています。

 

ガン(EPA、DHA、α─リノレン酸)

乳がん研究で、EPAとDHAの摂取量との間に負の関連が認められており、最大摂取群は最少摂取群に比べ、14%のリスク減少が認められています。また、結腸直腸がん研究では男性において、n─3系脂肪酸(α─リノレン酸を含む)摂取量が多い群で平均13%のリスク減少が認められている。日本人でも長期間の観察により、男性で魚由来n─3系脂肪酸摂取の最大摂取群で近位大腸部のがんのリスク減少があり、摂取量が1.06g/日の群で直腸がんのリスク減少が認められました。また、研究で魚由来n─3系脂肪酸摂取量用量依存性に、肝がん罹患が減少することを認めています。

 

その他(EPA、DHA)

認知能や認知症に関してn─3系脂肪酸との関連は明らかではありません。しかし、CIND(cognitive impairment no dementia)に対して有効性を示唆している介入研究もあります。

うつ病では有意な効果は認められないとした研究や双極性障害で効果が認められたとする介入研究があります。

炎症に関しては幾つかの介入研究でn─3系脂肪酸投与により血中の炎症マーカーや内皮機能が改善されています。しかし、炎症性腸炎、喘息、アトピー性皮膚炎、リウマチ性関節炎等の炎症性疾患患者に有効かどうかは不明です。

 

 

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