脂質と予防-生活習慣病との関連(食事性コレステロール)

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コレステロールは体内で合成できる脂質であり、12~13mg/kg体重/日(体重50kgの人で600~650mg/日)生産されています。高コレステロール血症、高トリアシルグリセロール(中性脂肪)血症、低HDLコレステロール血症、糖尿病、高血圧症と診断された患者や気になる方は以下のような配慮が必要です。

 

食事性コレステロールと生活習慣病

高コレステロール血症

LDLコレステロール(又は non HDL コレステロール)高値は動脈硬化症の原因の一つになるため、血中LDLコレステロール(又は non HDL コレステロール)を一定の範囲にしておくことは非常に重要です。日本動脈硬化学会では、他の動脈硬化症の危険因子(冠動脈疾患の既往、喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞など)の有無を考慮し、LDLコレステロールの管理目標を定めています。

日常生活の中で実行可能なレベルでの脂質並びにコレステロール摂取量の制限によって血清コレステロール値は改善できます。しかし、飽和脂肪酸やコレステロールを含む食品を制限すると、特に高齢者において低栄養になる可能性があり、他の栄養素の不足に注意する必要があります。また、血清総コレステロール(又は LDL コレステロール)値に影響を及ぼす生活習慣の要因は、運動や肥満是正を中心として脂質摂取以外にも知られています。したがって、高コレステロール血症患者に対しては、脂質の摂取制限のみならず、関連する生活習慣要因の存在の有無と程度を総合的に判断して行うことが必要があります。

現在の臨床研究からは食事によるコレステロール低下療法が高コレステロール血症患者の心筋梗塞の罹患を予防できるかどうかは明らかではありません。

 

高トリアシルグリセロール(中性脂肪、トリグリセライド)血症

日本人を対象としたいくつかの研究で、空腹時トリアシルグリセロール(中性脂肪)値150mg/dL以上で冠動脈疾患罹患が増加しています。しかし、空腹時のトリアシルグリセロール(主にVLDL)が直接、動脈硬化を促進するかどうかは明らかではありません。高トリアシルグリセロール血症患者では、その原因が多岐にわたるために、脂質だけでなく炭水化物(アルコールも含めて)の摂取過剰(エネルギー摂取過剰)、遺伝的疾患(LPL、ApoC─Ⅱの欠損症やApoE2/E2型など)、代謝疾患(肥満、未治療の糖尿病、甲状腺機能低下症、アルコール中毒症)の存在、妊娠、薬の副作用などを考慮し、その原因にあった食事療法が必要です。非常に高いトリアシルグリセロール血症患者に対しては急性膵炎を生じる可能性があり、薬物療法を含めた緊急の治療が必要です。肥満がある場合、エネルギー摂取量と身体活動量の適正化を図り、肥満の是正を行ってください。肥満がない場合、炭水化物の過剰摂取かアルコール多飲の有無を確認し、該当項目を是正するよう心掛ける必要があります。

血中トリアシルグリセロール値を低下させるためには2~4g/日のEPAとDHAのカプセルでの投与を推薦しています。用量依存性の関連が知られていて、1g/日のEPAとDHA投与により血中トリアシルグリセロール値が5~10%低下し、投与前の血中トリアシルグリセロール値が高い患者ほど効果は強い傾向がでています。

 

低HDLコレステロール血症

日本人を対象とした研究で、HDLコレステロール値は低いほど冠動脈疾患罹患が増加していますが、40mg/dL未満からリスクが急上昇することが示されいて、40mg/dL未満が低HDLコレステロール血症の基準になっています。正常な機能を持つHDLは血管壁からコレステロールを引き抜いているので、HDLコレステロール値の低下は動脈硬化症の原因になります。肥満症、内臓肥満の患者ではエネルギー摂取量を減らして、減量が安定すればHDLコレステロール値は増加します。エネルギー摂取量の制限中はLPL活性が減少するため、HDLコレステロール値は減少することに注意する必要があります。脂肪酸の中では、トランス脂肪酸摂取がHDLコレステロールを低下させる作用があります。

EPAやDHAを含んだサプリメント投与研究で、DHAはHDLコレステロールを増加させるが、EPAは増加させないことが示されています。しかし、低HDLコレステロール血症患者にDHAを投与して、心筋梗塞罹患が減少するとの報告はありません。その理由の一つに、DHA投与によりLDLコレステロールが増加することが考えらられます。

 

糖尿病

糖尿病患者で、どのような脂肪エネルギー比、脂肪酸組成の食事が、腎症、網膜症などの合併症を少なくし、死亡率を減少できるのかほとんど検討されていません。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版では、糖尿病があるとLDLコレステロールの管理目標値は120mg/dL未満になっていて、120mg/dL以上の場合、飽和脂肪酸やコレステロール摂取量の減量が望まれます。

 

高血圧

高血圧患者では魚油由来のn─3系脂肪酸(EPA、DHAなど)は積極的摂取が推奨されます。多くの観察研究でn─3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いものは血圧が低いことが示されています。また、EPA、DHA、DPAの総和の血中レベルが高いものは血圧が低いという報告もあります。介入研究でも魚油の降圧効果が報告されていて、例えば、平均年齢60歳の正常高値血圧の高トリアシルグリセロール血症患者に85%以上のEPAとDHA(比率は0.9:1.5)を含む多価不飽和脂肪酸2g/日を12か月投与すると、収縮期/拡張期血圧が-2.7/-1.3mmHg低下するという報告がある。また、中央値3.7g/日の魚油の投与量(期間は平均11.7週間)で、収縮期/拡張期血圧-2.1/-1.6mmHgの有意の降圧がありました。特に、45歳以上、収縮期/拡張期血圧140/90mmHg以上の症例で、その効果は顕著でした。有意の降圧効果を発揮するには3g/日以上の大量の魚油の摂取が必要で、魚油のみでの降圧は困難と考えられます。他の食事性因子との組合せも留意する必要があります。

 

 

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