食物繊維は人の消化酵素で消化できる易消化性炭水化物と消化できない難消化性炭水化物に分類できます。また、水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維に分けることもできます。食物繊維という名称は生理学的な特性を重視した分類法によるものですが、食物繊維の定義は国内外の組織間で少しずつ異なっており、厳密な定義はありません。通常の食品だけを摂取している状態では、取される食物繊維のほとんどが非でんぷん性多糖類になります。
食物繊維の働き・役割
食物繊維は人間の消化酵素では消化されず、腸内では老廃物の運搬係や不要な物質を体外へ排出する役割があります。このため、エネルギー源としてはほとんど役割を果たしません。また、コレステロール値低下作用や糖質の吸収抑制作用など様々な生理機能をもつ成分です。
食物繊維と予防
食物繊維摂取量との関連が検討された生活習慣病はかなり多く存在しています。例えば、食物繊維摂取量が増えると以下の病状の発症などが低下する関連を認めたとする研究報告が数多く存在しています。
- 心筋梗塞の発症と死亡
- 脳卒中の発症
- 循環器疾患の発症または死亡
- 糖尿病の発症
- 乳がんや胃がんの発 症
糖尿病
糖尿病の発症との関連を検討した研究では穀類由来の食物繊維摂取量に比例して発症率が低下する関連が観察されています。食物繊維摂取量を増加させ、血糖値等の変化を観察した 15 の介入試験をまとめた結果では、平均 18.3 g/日の増加で平均 15.3 mg/dL の空腹時血糖の低下が観察されたと報告されています 。しかし、食物繊維が糖尿病の発症予防 に有効か否かには果物由来の食物繊維や野菜由来の食物繊維などの摂取源を考慮する必要性を示唆しているため、食物繊維をとれば糖尿病の予防に必ずしも効果があるとは限りません。
循環器疾患
循環器疾患の強い危険因子である 血圧と血清(または血漿)LDL コレステロール値との間でも食物繊維摂取量に比例して発症率が低下する関連が示唆されています。
ガン
ガンの中で特に大腸ガンとの関連についての研究結果は必ずしも一致していません。食物繊維摂取量と大腸ガンの発症の関連を単純に検討すると食物繊維摂取量に比例して発症率が低下する関連が認められましたが、葉酸・赤身肉・牛 乳・アルコールの摂取量の影響を考慮すると、この関連は有意ではなくなったとする報告があり、 結果が一致しない理由の一つではないかと考えられています。このため、食物繊維のガン予防に関してはデータ不足のため必ずしも効果があるとはいえません。
便秘
食物繊維摂取量が排便習慣、健康障害としては便秘症に影響を与える可能性があるといわれています。食物繊維摂取量と便秘症罹患率との関連を横断的に検討した疫学研究では、摂取量と便秘症の罹患率との間に食物繊維の摂取量との関連を認めたとする報告があります。その他の研究では食物繊維 20 g/日で糞便重量が増加し、良好な排便が期待できるとした報告があります。反面、糞便重量の増加は認められるが便秘が改善するとは結論づけられないとした報告もあります。このように、通常の食品から摂取できる範囲における食物繊維摂取量が便秘症にどの程度 の影響を与えているのか、また、どの程度の食物繊維摂取量が良好な排便習慣に寄与するかについ ては、いまだ十分に明らかではありません。
血圧・コレステロール
食物繊維摂取量を増加させた介入試験で血圧との間でも食物繊維摂取量に関連が示唆されています。また、血清LDLコレステロール値との間でも同様の関連が示唆されていますが、この効果は水溶性食物繊維に限定されてい ます。一方、LDLコレステロール値低下作用は低グリセミック・インデックス食でも観察されてお り、グリセミック・インデックスが低い食事は総じて食物繊維、特に不溶性食物繊維が豊富であると考えられるため、高 LDL コレステロール値を示す人に対して水溶性・不溶性を問わず、食 物繊維を勧めるのは好ましいと考えられています。
その他
肥満との関連を示した研究も多数存在しています。
食事摂取基準
食物繊維の食事摂取基準(g/日)
年齢 | 男 性 目標量(g/日) | 女 性 目標量(g/日) |
---|---|---|
6~7(歳) | 11 以上 | 10 以上 |
8~9(歳) | 12 以上 | 12 以上 |
10~11(歳) | 13 以上 | 13 以上 |
12~14(歳) | 17 以上 | 16 以上 |
15~17(歳) | 19 以上 | 17 以上 |
18~29(歳) | 20 以上 | 18 以上 |
30~49(歳) | 20 以上 | 18 以上 |
50~69(歳) | 20 以上 | 18 以上 |
70 以上(歳) | 19 以上 | 17 以上 |
6歳未満と妊婦の食事基準値は定義されていません。
食物繊維を含む食品・食材
野菜や果物、海藻、キノコなどに多く含まれます。
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