亜鉛は300種類以上の酵素に関わり、細胞の成長や、たんぱく質をつくる働きなどに欠かせないミネラルです。亜鉛が不足すると、皮膚炎や味覚障害、慢性の下痢、低アルブミン血症、汎血球減少、免疫機能の障害、神経感覚の障害、認知機能の障害、成長の遅れ、性腺の発育障害などが起こる可能性があります。
この記事では厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)や、国立健康・栄養研究所の情報をもとに、亜鉛の不足で起こる病気と、生活習慣病との関係をまとめます。
亜鉛が不足しやすい人
亜鉛の不足は、食事から摂る量が少ないとき、必要な量が増えたとき、体の外に出ていく量が増えたときに起こります。亜鉛を加えていない点滴(高カロリー輸液)や経腸栄養を続けている場合や、亜鉛と結びつく薬を飲んでいる場合にも不足することがあります。MSDマニュアル家庭版では、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬、副腎皮質ステロイド、エストロゲン、一部の抗てんかん薬が体内の亜鉛を減らすことがあるとされています。高齢になると亜鉛を吸収する力が下がるという報告もあります。
MSDマニュアル家庭版「亜鉛欠乏症」では、亜鉛の不足が起こりやすくなる病気として、アルコール使用症、慢性腎臓病、糖尿病、肝臓の病気、セリアック病やクローン病など栄養の吸収を妨げる病気を挙げています。利尿薬を使っている人や、介護施設で暮らす高齢者、家から出られない人でも多く見られるとされています。また、全粒穀物や玄米、豆類、ナッツ類に含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収を妨げます。
ライナス・ポーリング研究所の解説では、このほか、早産や低出生体重の赤ちゃん、亜鉛の多い離乳食が足りない母乳育ちの乳幼児、妊娠・授乳中の女性(特に10代)、摂食障害などで栄養が足りない人、重いやけどや長引く下痢のある人も、亜鉛が不足しやすいとされています。穀物と豆類を主な食事にしている菜食の人は、フィチン酸のため、亜鉛の必要量が最大で5割ほど多くなることがあるとされています。
日本人の成人が摂っている亜鉛の量は、男性で1日9.4mg、女性で1日7.7mg程度です。亜鉛の推奨量は成人男性で1日9.0~9.5mg、成人女性で1日7.0~8.0mgです。
亜鉛の摂取基準については必須ミネラル亜鉛の機能・役割と食事摂取基準を確認してください。
亜鉛の不足で起こる症状と病気
味覚障害
亜鉛が不足すると、味がわかりにくくなる味覚障害が起こります。日本では、若い成人女性で、味覚の働きの低下と亜鉛が少ない状態との関係が報告されています。
皮膚炎・傷の治りの遅れ
亜鉛が不足すると、皮膚炎や皮膚の発疹が起こり、傷が治りにくくなることがあります。
成長の障害・性腺の発育障害
子どもでは、亜鉛が不足すると成長の障害や、性腺の発育障害が起こることがあります。
免疫機能の低下
亜鉛は免疫の反応の調節にも関わっており、不足すると免疫の働きが下がります。
そのほかの症状
食欲不振、慢性の下痢、貧血、神経感覚の障害、認知機能の障害なども起こる可能性があります。まだらに髪が抜ける、においがわかりにくくなる、だるさやいらいらを感じるといった症状も見られるとされています。
妊娠中に亜鉛が不足すると、赤ちゃんの生まれたときの体重が少なくなったり、早産になったりすることがあるとされています。
男性では、精子がつくられる量が減ることがあります(MSDマニュアル家庭版「亜鉛欠乏症」)。重い亜鉛の不足では暗いところで見えにくくなる夜盲や、行動の変化も起こるとされています(ライナス・ポーリング研究所)。
生まれつきの病気(腸性肢端皮膚炎)
腸性肢端皮膚炎は生まれつき亜鉛を吸収しにくいまれな病気です。MSDマニュアル家庭版によると、ふつうは離乳後の赤ちゃんに症状が現れ、下痢や脱毛、目・鼻・口のまわりとお尻の発疹が見られ、感染症にかかりやすくなることもあります。亜鉛のサプリメントが効果的ですが、ライナス・ポーリング研究所の解説によると、この病気では飲み続ける必要があります。
亜鉛不足の検査と治療
日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針2018」を紹介した論文によると、日本では亜鉛の不足は少なくないものの、あまり知られていません。この指針では、味覚障害や皮膚炎などの症状があり、ほかの病気が否定され、血液中の亜鉛濃度が低く、亜鉛を補うと症状がよくなる場合に、亜鉛欠乏症と診断します。血液中の亜鉛濃度が60µg/dL未満なら亜鉛欠乏、60~80µg/dLなら潜在性の亜鉛欠乏とされています。
味覚障害のある人では、亜鉛を補うことで50~82%の人の味覚がよくなったとされています。効果はすぐには現れないため、少なくとも3か月は続けるとされています。味がわかりにくい、皮膚炎が治らないといった症状が続くときは、自分でサプリメントを使う前に医療機関で相談してください。
なお、MSDマニュアル家庭版によると、血液や尿の亜鉛の濃度だけでは、体の亜鉛の状態を正確に判定できないことがあります。そのため医師は、症状や、亜鉛を補ったときに症状がよくなるかもあわせて判断します。また、亜鉛を多く長く摂り続けると銅の吸収が妨げられ、銅が不足することがあります。
医療機関では低亜鉛血症の治療に酢酸亜鉛水和物の薬を使うことがあります。この薬の添付文書では、血液中の銅の濃度を定期的に確かめることが望ましいとされ、重い副作用として銅欠乏症と出血を伴う胃潰瘍が挙げられています。
生活習慣病との関係
糖尿病
亜鉛を多く摂るほど糖尿病のリスクは下がるとされていますが、リスクが高いのは亜鉛の必要量を満たしていない場合です。必要量を超えて亜鉛を摂っても糖尿病のリスクが下がるという明確な根拠はありません。
亜鉛のサプリメントで糖尿病の人の検査値がよくなったという分析もあります。しかし、サプリメントで1日20~25mgを補うと、食事と合わせて耐容上限量(これ以上摂ると健康障害のリスクが高まる量)に近くなります。2025年版では糖尿病の悪化を防ぐ目的で亜鉛の摂取量を1日30mg以上に増やすことには慎重であるべきとしています。
心臓・血管の病気、高血圧
研究をまとめた報告では、亜鉛が多い状態で心臓や血管の病気のリスクが下がったのは、糖尿病がある人などリスクの高い人たちだけでした。一般の人では、亜鉛と心臓や血管の病気との関係ははっきりしていません。高血圧の人で血液中の亜鉛濃度が低いという報告はありますが、亜鉛を摂ることで高血圧を防げるかは明らかではありません。
亜鉛を多く含む食品
亜鉛はすべての細胞にあるため、肉、魚介類、種実類、穀類など、多くの食品に含まれています。
文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)増補2023年で、可食部100gあたりの亜鉛の量を見ると、かき(養殖・生)14.0mg、パルメザンチーズ7.3mg、豚レバー(生)6.9mg、いりごま5.9mg、和牛もも肉(赤肉・生)4.5mg、プロセスチーズ3.2mg、糸引き納豆1.9mgなどです。食品ごとの量は亜鉛が多い食品ランキングにまとめています。
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