リンは食品添加物として、加工食品に広く用いられているため、過剰摂取に注意する必要があります。長期にわたってリンを過剰摂取すると、腎機能の低下、副甲状腺機能の亢進、カルシウムの吸収抑制などが起こることが知られています。腎機能が正常なときは、高濃度のリンを摂取すると副甲状腺ホルモン並びに線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の分泌が亢進して腎臓からのリン排泄を促進し、血中のリン濃度を正常範囲に維持するように働きます。このため、リンを過剰摂取した場合も、早朝空腹時の血清リン濃度は正常範囲に保たれてます。腎機能が正常であれば、リンを過剰摂取しても排泄されまが、長期間のリンを過剰摂取することで腎機能を低下させ血中のリン濃度を高め、リン過剰症を起こすといわれています。特に、リンを過剰に摂取したうえに、カルシウムの摂取量が少ない状態が長期間続くことは、骨の形成に関わり、骨量や骨密度の低下を招きます。また、腎不全や腎臓結石もリンの過剰摂取によって起こる可能性があります。その他、リンの長期におよぶ過剰摂取によって、副甲状腺ホルモンの分泌が過剰となると、腎不全が引き起こされることがあります。また、副甲状腺ホルモンは、腸管からカルシウムを吸収する抑制にも関与し、低カルシウム血症の原因ともなります。食品添加物が含まれた食品や清涼飲料を大量の摂取は、腎臓結石の要因のひとつになります。
リンの摂取基準についてはリンの機能・役割と食事摂取基準を確認してください。
リンの過剰摂取による副作用(過剰症)
高リン血症
血清P濃度が5.0mg/dl以上のとき、高リン血症といいます。原因にはリンの過剰摂取と排泄量の低下があります。基本的にはPを過剰摂取しても、腎機能が正常であれば、速やかに排泄され正常値に戻りますが、腎機能が低下すると排泄量が減少し、高リン血症を起こします。特定の症状は現れにくく、通常は原因疾患の症状が現れます。急性の高リン血症の場合、低カルシウム血症を引き起こすことがあります。慢性腎不全患者の場合、異所性石灰化、動脈硬化、心血管合併症、関節痛、を引き起こすことがあります。
低カルシウム血症
リンの過剰摂取は腸管におけるカルシウムの吸収を抑制します。このため、リンの過剰摂取が低カルシウム血症の要因になります。血液中のカルシウム濃度が8.5mg/dl以下に低下した状態を低カルシウム血症といいます。体内のカルシウムは骨に蓄えられており、必要に応じて血液中に供給されますが、尿に出てしまうカルシウムの量が多すぎるたり、カルシウムが骨から血液中へ移動しなくなってしまうと、血中濃度は低下してしまいます。原因となる病気は、ネフローゼ症候群、慢性腎不全、副甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、低マグネシウム血症、一部の悪性腫瘍などがあります。また、カルシウムは骨や歯の形成、筋肉の収縮、心臓の洞調律の維持、血液行にも重要な役割を果たしているため、手足のしびれや錯乱、意識混濁、けいれん、低血圧症、不整脈などが起こる可能性があります。
骨成長不全
リンの過剰摂取は腸管におけるカルシウムの吸収を抑制するため、骨の形成に影響します。リンを過剰に摂取すると、骨成長不全などを引き起こします。
腎不全
基本的に正常な腎臓ではリンの過剰摂取を行っても、副甲状腺ホルモンの分泌の亢進が起こり、腎臓でのリンの吸収が抑制されて血中のリン濃度が正常範囲に維持されます。食品添加物としてリンを多量に摂取した場合、総摂取量が2,100mg/日を超えると副甲状腺機能の亢進を来すという報告があります。リンの過剰摂取が長期にわたると、副甲状腺ホルモンの過剰分泌を原因として腎不全を引き起こします。
腎臓結石・尿路結石
腎臓結石を経験した人を対象に、リンが含まれる清涼飲料を制限した場合、制限しなかったグループと比べて、3年間の腎臓結石の再発が有意に減少したとする報告があります。リンの過剰摂取が、シュウ酸カルシウム結石形成に関係する尿中の危険因子の変化を引き起こすとされています。また、シュウ酸カルシウムは尿路結石の原因にもなります。
石灰化
リン濃度を正常濃度の5倍量の1.5%に調整した高リン食をラットに与えると、腎臓中カルシウム、リン濃度が増加が確認されています。また、多量のカルシウム沈着も認められました。この結果から、リン過剰摂取は腎臓にカルシウム沈着すなわち石灰化を引き起こす可能性があることを示しています。さらに、腎臓へのカルシウム沈着の度合いは投与リン濃度に依存することも示されています。カルシウム沈着は、腎臓の皮質、髄質外帯および髄質内帯と腎臓全体に認められ、特に髄質外帯に多量のカルシウム沈着が観察されています。このため、リンの過剰摂取は石灰化の原因になる可能性があります。
リンの不足・欠乏については以下をご覧ください。
コメント