骨や歯の形成、血液の凝固の補助、神経や筋肉の興奮を抑える役割など、生命の維持や活動に重要な役割を担っています。このため、カルシウムの不足は骨や神経系統に関わる病気になる可能性があります。
生活習慣病
カルシウムと生活習慣病の関連は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病とは特に強い関連は認められていないものの、カルシウムが関わっています。いくつかの研究では血圧平均値はカルシウム摂取量の増加に伴い低下することが示されていると報告があります。
骨粗鬆症・骨軟化症
カルシウムは骨の主要な構成成分で体内で最も多く含まれるミネラルです。大部分は骨などの硬組織にリン酸と結合したリン酸カルシウムとしてヒドロキシアパタイトという物質として存在しています。骨粗鬆症は骨の微細構造が破綻をきたした骨折しやすい状態のことをいいます。骨は形成後にそのままの状態で維持されるわけではなく、血液中のカルシウム濃度が低下した場合、副甲状腺ホルモンが働き、分泌されるパラトルモンは骨からカルシウムを溶かし出し、血液中へ放出します。このためカルシウムが不足すると骨軟化症や骨粗鬆症を起こす可能性があります。特に高齢者や女性に圧倒的に多い病気です。女性に多い理由は、卵巣機能低下により卵胞ホルモンのエストロゲンの減少するためです。閉経後10年間で10~20%の骨量が減少するといわれています。
くる病
くる病とはビタミンD欠乏や代謝異常により生じる骨の石灰化障害で、典型的な病態は乳幼児の骨格異常です。成人の場合は骨軟化症といいます。この病気の原因の1つとしてカルシウムの摂取不足が挙げられています。カルシウムの摂取が少ない一部の発展途上国ではくる病が発生しやすい傾向があります。
高血圧、動脈硬化
血管の壁は平滑筋という筋肉でできており、血管を拡げたり狭めたりして血液の流れを調節しています。カルシウムが不足時には、副甲状腺ホルモンが分泌され、骨からカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウム濃度を正常に戻そうとします。副甲状腺ホルモンは、カルシウムを細胞内に取り込む働きもするため、血管の筋肉である平滑筋にカルシウムが入り、筋肉を収縮させます。この働きにより、血管の内側が狭くなり高血圧を引き起こします。また、高血圧症の患者ではカルシウムの摂取量が少ない人ほど尿へのナトリウム排泄が少ないことが知られています。カルシウムを多く摂ると高血圧の原因の1つであるナトリウムの利尿作用が起こります。このため、カルシウムが不足した場合、高血圧やそれに伴う動脈硬化になる可能性があります。
アルツハイマー病・認知症・痴呆症
カルシウムが不足した場合、血液中に放出されたカルシウムが脳細胞に入り込み、脳の伝達経路を壊して最終的には脳細胞を壊死させてしまいます。特に血液中のカルシウムが増えてしまうと、脳の記憶をつかさどる海馬の細胞に不必要なカルシウムが入り込んでしまいます。細胞の中にカルシウムが入るとその細胞は硬化してしまい、海馬の細胞を破壊してしまいます。なお、一度破壊されると脳細胞は元に戻りません。このため脳組織が委縮・減少し、アルツハイマー病、認知症、痴呆症が進行する可能性があります。
また、アルツハイマー病の特徴的な行動の一つとして、夕方になると落ちつきがなくなり、フラフラと徘徊しがちになることが挙げられます。これをたそがれ症候群といいます。原因としては、血液中のカルシウムは夕方になると少し下り、副甲状腺ホルモンが増えることが考えられています。
糖尿病
糖尿病の発症には、インスリン分泌障害とインスリン抵抗性が関与しています。膵β細胞からのインスリン分泌の過程としては、糖からできたグルコースが膵β細胞で代謝されるとアデノシン三リン酸(ATP)が増加し、このアデノシン三リン酸の増加に反応してアデノシン三リン酸の感受性カリウムチャネルが閉鎖します。この働きにより細胞膜の電位が上昇し、電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが細胞内に流入しインスリン分泌されます。このようにインスリンの分泌にはいくつかの過程がありますが、そのうちの1つにカルシウムが関わっています。インスリンはどれか1つの過程ができなくなると分泌できなくなるため、カルシウムの不足が糖尿病の原因になる可能性があります。
カルシウムの摂取基準についてはカルシウムの機能・役割と食事摂取基準を確認してください。
カルシウムの過剰摂取についてはカルシウム過剰摂取による副作用(過剰症)を確認してください。
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