ビオチンの不足と生活習慣病・病気

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ビオチンは腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において不足はほとんどありません。ただし、抗生物質の服用により腸内細菌叢に変調をきたすと欠乏症を示すことがあります。また、卵白に含まれるアビジンというたんぱく質は、腸内でビオチンと結合して高分子の物質となるため、腸管でのビオチンの吸収が妨げられることによっておこることもあります。(卵白障害)ビオチン欠乏症は、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症、1型や2型の糖尿病に関与しています。ビオチンが欠乏すると、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂鬱感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなどが惹起されます。欠乏すると乳酸アシドーシスなどの障害が起きる可能性がありあます。ビオチンは飲食物との相互作用もあり、喫煙、副流煙による受動喫煙はビオチンの効力をなくしてしまうことや、飲酒はビオチンを多量に消費してしまうので避けることが必要です。また、乳製品の偏った食べ過ぎや生卵白などは吸収を阻害します。摂取不足によるビオチン欠乏症として、日本ではアレルギー治療用特殊ミルクやメチルマロン酸血症治療用ミルクの摂取によるビオチン欠乏症、またビオチン無添加の高カロリー輸液によるビオチン欠乏症も報告されています。

 

生活習慣病

発症予防及び重症化予防に関連した論文はありません。

高血圧

脳卒中易発症性高血圧自然発症ラットを用いてビオチンを長期摂させた調査の結果、収縮期血圧が低下したことが確認されています。このため、ビオチンが不足すると高血圧のリスクが上がる可能性があります。

糖尿病

ビオチンが不足した場合、インスリン分泌が極めて低下します。1型糖尿病、2型糖尿病、インスリン依存型糖尿病患者においても、ビオチンの投与によって血糖値の正常化が確認されています。このため、ビオチンの不足は糖尿病などの血糖値の正常化が期待できます。

 

ビオチン欠乏症

ビオチンの欠乏症には皮膚炎や食欲不振、疲労感や結膜炎、鱗屑状皮膚炎、嘔吐、悪心、脱毛、白髪などの症状を引き起こします。先天性ビオチン欠乏症と栄養性ビオチン欠乏症があります。

先天性ビオチン欠乏症は常染色体劣性遺伝疾患です。先天的ビオチン欠乏症にはビオチニダーゼ欠損症とホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症があります。ビオチニダーゼ欠損症はビオチンが再利用できないことによって起こります。通常ビオチンはビオチニターゼによってリサイクルされるのですが、ビオチニダーゼ欠損症の場合、ビオチニダーゼがないためにリサイクルできず、ビオチン欠乏症になります。ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症はビオチンをアポカルボキシラーゼに取り込む反応を触媒する酵素であり、活性化できないことによる欠乏症状です。

栄養性ビオチン欠乏症は先天性代謝異常症とは異なり、腸管から吸収されるビオチンの不足によって引き起こされます。乳幼児の場合ビオチン欠乏は出産時に、ビオチン欠乏の母親から悪玉菌優勢の腸内細菌叢を引き継ぐこと、母乳中にビオチンが少ないことで発症するといわれています。生活環境では、喫煙、アルコール、乳製品、生卵白などの取りすぎ、頻回の下痢、抗生物質やストレスなどで腸内細菌叢の構成に異状をきたしたとき、完全静脈栄養施行、腎臓透析施行、ペプチドミルク(乳幼児)の過剰摂取、一部の抗てんかん薬の過剰な服用、鎮痛薬の過剰な服用などで欠乏します。ビオチンの吸収を阻害する卵白障害の実験では、毎日200gの乾燥卵白を与えたとき,7週以降では体内のビオチン低下に伴って皮膚の発赤、疲労感、筋肉痛、知覚異常、嘔吐などの症状が現れ、血液学的にもヘモグロビン減少、コレステロールの増加などが確認されています。栄養性ビオチン欠乏症は、ビオチニダーゼの症状、皮膚炎、尿中の有機酸排泄異常で気づかれることが多い傾向にあります。

 

ビオチニダーゼ欠損症

ビオチニダーゼ欠損症は活性低下によって細胞内ではカルボキシラーゼの分解によるビオチンのリサイクルに障害を起こし、細胞外でビオシチン、ビオチニルペプチドからのビオチンの遊離、細胞内へのビオチン取り込みの低下を起こし、結果的にビオチン欠乏を引き起こす先天性ビオチン欠乏症です。

 

カルボキシラーゼ欠損症

カルボキシラーゼ欠損症は単一あるいは多数のカルボキシラーゼ欠損で起こる先天性ビオチン欠乏症です。マルチプルカルボキシラーゼ欠損症は新生児・乳児型と遅発・乳幼児型があり,新生児・乳児型はホロカルボキシラーゼ合成酵素の欠損で起こり、遅発・乳幼児型は繊維芽細胞のカルボキシラーゼ活性は正常で、腸管でのビオチン吸収異常によって起こります。

 

皮膚疾患(アトピー性皮膚炎・掌蹠膿疱症など)

ビオチンは、抗炎症物質を生成する事によってアレルギー症状を緩和する作用があります。ビオチンはタンパク質の生成にも関係し、皮膚を作る細胞を活性化させ、老廃物の排泄を促し、皮膚の機能を正常に保つ働きがあります。体内にアレルゲンが侵入すると抗アレルギー物質であるヒスタミンが放出されます。ヒスタミンは皮膚の炎症を引き起こす物質でもあります。また、ビオチンにはコラーゲンやセラミド(細胞間脂質)などの生合成を高める働きがあり、炎症や変形をともなう病気の治癒を促すことができます。このため、ビオチンが不足すると、皮膚の炎症や皮膚の異常を引き起こす可能性があります。

 

胎児の奇形・成長障害

妊娠中ビオチン不足の状態に陥った母体の胎児に高い確率で口蓋裂、小顎症、短肢症、内臓形成障害などの奇形が誘発されることが報告されています。また、妊娠期におけるビオチンの摂取は、子供の発育にとって重要であることがわかっています。ビオチン欠乏は数種類の動物で催奇形性作用が報告されており、ラットを妊娠前からビオチン欠乏状態にすると、胎仔や出産仔の数や体重の減少,吸収胚,死亡胎仔の増加が確認されています。マウスでは妊娠中のビオチン欠乏は胎仔の奇形や死亡を著しく増加させることが確認されています。主な形態異常は口蓋裂,小顎症,短肢症で,骨格は下顎骨,頭骸の低形成や頸椎弓の異常が特徴的です。ハムスターにおいても胎仔発育の抑制、吸収胚、死亡胎仔の増加があり,生存胎仔には妊娠中期から形態異常や骨格異常がみられます。その他、哺乳動物の生殖器およびその付属機関において、長期間のビオチン欠乏状態で前立腺や精巣の萎縮、細精管の変性があり、ビオチンは雄性生殖腺の発育、機能維持に必要であり、性ホルモン合成と分泌に関連しています。このため、ビオチンが不足すると、胎児が奇形や成長障害などになる可能性があります。

 

免疫不全症

ビオチンの不足は免疫系で細胞性、体液性の免疫機能において影響が現れます。ラットでは抗体産生が低下することが確認されています。このため、ビオチンは免疫不全症を引き起こす可能性があります。なお、ビオチンは自己免疫疾患(易感染性、膠原病)などの治療法に使用される場合があります。

 

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