セレンは微量ミネラルの1つで、体の維持に必要な必須ミネラルです。セレンはセレンを含むたんぱく質(セレノプロテイン)の形で働き、抗酸化の働きや甲状腺ホルモンの代謝に重要な役割を担っています。人には25種類のセレノプロテインがあることがわかっています。
一方で、厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)では、必要以上にセレンを摂ると糖尿病のリスクが高まる可能性があるとして、欠乏症を防ぐ目的以外でサプリメントによってセレンの摂取量を増やすことは控えるべきとされています。
この記事ではセレンについて言われてきた効果と、現在の研究でわかっていることを整理します。
セレンの効果・効能

甲状腺ホルモンの代謝
セレンはヨードチロニン脱ヨウ素酵素という酵素の成分です。この酵素は甲状腺ホルモンのチロキシンを、より働きの強いトリヨードチロニンに変えます。甲状腺ホルモンは体の代謝に欠かせないため、セレンは代謝に重要な役割を持っています。なお、甲状腺ホルモンはヨウ素を成分として持っています。ヨウ素についてはヨウ素の働きとは?甲状腺ホルモンをつくる役割と、不足・摂りすぎの影響、昆布の食べ方を確認してください。
甲状腺の病気のうち、橋本病(慢性甲状腺炎)の人にセレンのサプリメントを使った研究もあります。35件の研究をまとめた2024年のメタアナリシスでは、甲状腺ホルモンの薬を使っていない人で甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値がわずかに下がり、甲状腺に対する抗体(抗TPO抗体)の値も下がっていました。一方、コクランの系統的レビュー(2013年)は、研究の質に問題があるため、橋本病にセレンのサプリメントを使うべきかを判断できる根拠はまだないとしています。このレビューで調べた研究には、生活の質の変化を調べたものはありませんでした。サプリメントには下の「サプリメントと糖尿病のリスク」で説明する注意もあるので、橋本病の人がセレンのサプリメントを使うかどうかは主治医に相談してください。
その後に報告された412人のランダム化比較試験(2024年)では、甲状腺ホルモンの薬を使っている自己免疫性甲状腺炎(橋本病を含む病気)の人に、セレン(1日200µg)かプラセボ(有効成分を含まない錠剤)を12か月使いました。抗TPO抗体の値はセレンのグループのほうが低くなりましたが、生活の質はどちらのグループでも同じように改善して差がなく、薬の量にも影響はありませんでした。甲状腺の専門家による総説(2020年)も、この病気では抗体の値が下がっても、病気の経過がよくなる様子は見られないとまとめています。
バセドウ病では、目の症状(バセドウ病眼症)が軽い159人のランダム化比較試験(2011年)があります。セレン(1回100µgを1日2回)を6か月使ったグループでは、プラセボのグループより生活の質がよく、目の症状も軽く、進行も遅くなっていました。上の総説によると、セレンの使用が勧められているのはこのバセドウ病眼症だけです。バセドウ病の人も、自分の判断で使わず主治医に相談してください。
抗酸化作用
セレンは抗酸化酵素の成分になります。代表的なものが過酸化水素を分解するグルタチオンペルオキシダーゼです。
旧版の記事ではこの抗酸化作用によって老化やがん、動脈硬化を防ぐ効果があるとしていました。しかし、2025年版の食事摂取基準では、セレンがこうした病気を予防するという根拠は示されていません。
心臓や血管の病気
研究をまとめた分析では、血液中のセレン濃度が低めの集団では、セレン濃度が高い人ほど心臓や血管の病気になるリスクが低くなっていました。しかし、セレン濃度が十分な集団や、セレンのサプリメント(1日200µg程度)を使った研究では、セレンと心臓や血管の病気との間に関連は認められていません。セレンと高血圧の間にも関連はないとされています。
つまり、セレンが不足している人たちでは心臓や血管の病気や脂質異常症のリスクが高まる可能性がありますが、足りている人がさらにセレンを摂っても予防の効果は期待できません。日本人は平均で1日約100µgのセレンを摂っていると推定され、推奨量をかなり上回っています。
がん(癌)の予防
旧版の記事では、セレンにがんを予防する効果があるとしていました。2025年版の食事摂取基準では、セレンががんを予防するという根拠は示されていません。
がんを防ぐ目的でセレンのサプリメントを使った研究をまとめたコクランの系統的レビュー(2018年)でも、質の高いランダム化比較試験の結果から、サプリメントでがんになる人は減らないと結論づけています。
ライナス・ポーリング研究所の解説によると、このレビューの観察研究の分析では、セレンの状態がよい人ほどがんが少ない傾向が見られました。しかし、セレンのサプリメントを実際に使って比べた試験では、同じ結果にはなっていません。
皮膚がんになったことのある1,312人を調べたNPC試験では、セレン(1日200µg)を使ったグループで男性の前立腺がんが52%減りましたが、皮膚の扁平上皮がんは25%増えていました(同研究所の解説による)。そのあと男性3万5,533人で行われた大規模なSELECT試験では、同じ1日200µgのセレンを中央値で約5.5年使っても、前立腺がんや肺がん、大腸がんなどは減りませんでした。
免疫と感染症
セレンの不足は、免疫の低下や慢性の炎症と関連するとされています。ライナス・ポーリング研究所の解説によると、9件のランダム化比較試験をまとめたレビューでは、セレンのサプリメントはT細胞やNK細胞の働きに影響する可能性がある一方、抗体の働きにはあまり影響しないとされています。ぜんそくなどの炎症の病気に役立つかどうかを確かめるには、さらに試験が必要とされています。
HIV感染症の人を調べた6件のランダム化比較試験の系統的レビュー(2019年)では、セレン(1日200µg)で免疫細胞のCD4が減るのを遅らせる可能性が示されましたが、ウイルスの量を減らすという根拠は見つかっていません。
重い敗血症の人に点滴で大量のセレン(1日1,000µg)を使った1,089人の試験(2016年)では、死亡率は改善しませんでした。同研究所の解説によると、国際的な診療ガイドラインも、敗血症の治療にセレンの点滴を使うことを支持していません。
性機能・女性ホルモン
旧版の記事では、セレンが女性ホルモンのバランスを整え、更年期障害や生理不順を改善するとしていました。2025年版の食事摂取基準にはこうした効果の記述はなく、この記事では根拠のある効果として扱いません。
サプリメントと糖尿病のリスク
皮膚がんになったことのある人にセレンのサプリメント(1日200µg)を平均4.5年間使ったアメリカの研究では、血液中のセレン濃度が最も高いグループで2型糖尿病になる人が増えていました。34の観察研究をまとめた分析でも、セレンの摂取量が多いほど糖尿病のリスクが高いことが示されています。
通常の日本人の食生活であれば、セレンの摂取量は適切な範囲に保たれていると考えられています。欠乏症を防ぐ目的以外で、サプリメントによって日常的にセレンの摂取量を増やすことは控えるべきとされています。
2025年版の成人の推奨量は、男性が1日30~35µg、女性が1日25µgです。耐容上限量(これ以上摂ると健康障害のリスクが高まる量)は、成人男性が1日400~450µg、成人女性が1日350µgです。ただし、上の研究のように、耐容上限量より少ない量でも糖尿病のリスクが高まる可能性があります。年齢別の値はセレンの働きと1日の摂取量は?、摂りすぎたときの症状はセレンの摂りすぎで起こることで説明しています。
セレンの不足・欠乏の症状
セレンが不足すると、心筋障害を起こす克山病や、カシン・ベック病の原因になります。また、長期間にわたって点滴だけで栄養をとっていた(完全静脈栄養)人で、血液中のセレン濃度が大きく下がり、下肢の筋肉痛や皮膚の乾燥などが起きた例や、心筋障害を起こして亡くなった例が報告されています。
ただし、セレンの摂取量が少ない地域でも、欠乏症が出ていない地域があります。通常の日本人の食生活でセレンが不足することはほとんどありません。また、MSDマニュアル家庭版によると、セレンとヨウ素の両方が不足すると、甲状腺腫や甲状腺機能低下症を起こすことがあります。
関連記事
セレンの働きと1日の摂取量は?推奨量・耐容上限量と摂りすぎで起こる症状・糖尿病のリスク
セレンが不足すると起こる病気は?克山病・甲状腺の病気と心臓病・糖尿病との関係
セレンの摂りすぎで起こること|中毒の症状と糖尿病のリスク、耐容上限量
セレンが多い食品ランキング|100gあたりの含有量を食品群別に一覧
