必須ミネラル-セレン(セレニウム)の不足と生活習慣病と病気

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セレン欠乏症の症状として、心筋症、筋痛症、筋炎、溶血、細胞性免疫障害があります。また、爪の異常や毛髪の異常,赤血球の大球性変化や貧血が報告されています。新生児では、赤血球の脆弱化、脱毛症、発育遅延、成長障害、脳症が挙げられます。セレン欠乏症は、心筋障害を起こす克山病、カシン・ベック病などに関与しています。その他、セレンは甲状腺ホルモンであるチロキシンをより活性型であるトリヨードチロニンに変換するためにも必要です。セレンの欠乏症は過労、精神の減退、甲状腺腫、クレチン症、再発性の流産を繰り返す不育症を含めた甲状腺機能低下の症状を引き起こすこともあります。チロキシンとトリヨードチロニンはヨウ素を構成要素にもつ成分です。ヨウ素に関連する病気は必須ミネラル-ヨウ素の不足と生活習慣病と病気を確認してください。

 

糖尿病(生活習慣病)

セレンは、インスリンの情報を細胞内で伝達し、血糖を低下させる働きがあります。セレンが不足すると、血糖中のブドウ糖が細胞内に充分に取り込まれなくなり高血糖になります。糖尿病患者にセレンを補給すると、細胞内でのインスリンの情報は順調に伝達され、血糖が低下し、糖化ヘモグロビンのHbA1cも低下することが報告されています。しかしながら、セレンの摂取が糖尿病の予防に役立つとは限りません。他の報告ではセレンの過剰摂取により、逆に糖尿病のリスクをあげるといった報告があります。

 

高血圧(生活習慣病)

セレンは血圧を調整するプロスタグランジンの生成にも関与しています。プロスタグランジンは血管を拡張させたり、血圧を下げたり、血栓の形成を防ぎ血圧を正常に保つ働き働きがあります。このため、セレンには高血圧を予防する効果が期待できます。また、高血圧は活性酸素によっても影響を受けますが、セレンには活性酸素を除去する酵素に働きかける効果もあります。セレン欠乏の人では,血液の流れやすさを示す血液流動度が低下しており、セレン投与によって血液流動度が高まることが報告されています。しかしながら、セレンと高血圧症に関する疫学的観察研究をまとめた論文では、セレン状態と高血圧との間に関連はないと結論しています。一方、大規模な横断研究は、血清のセレン濃度とコレステロールと中性脂肪の関連がU字型であることを示しており、適切なセレン摂取量が高血圧の抑制につながる可能性を示唆しています。

 

動脈硬化

セレンは過酸化水素を水と酸素に分解するグルタチオンペルオキシダーゼに必要です。セレンは、抗酸化作用や活性酸素を分解させることで、酸化を防ぎ、血管や肌などの老化を抑えてくれる働きがあります。血管は活性酸素により酸化されると血管は硬くもろくなり、動脈硬化の原因になります。このため、セレンが不足すると動脈硬化の原因になる可能性があります。

 

がん(癌)

セレンの抗酸化作用が余分な活性酸素を分解し、がん細胞の発生を抑制すると考えられています。また、活性酸素によって酸化された過酸化脂質も分化する作用があります。活性酸素や過酸化脂質は細胞を傷つけるため、セレンの不足はがんのリスクを高める可能性があります。疫学研究では、セレニウム量の摂取量が、大腸癌、前立腺癌、肺癌、膀胱癌、皮膚癌、食道癌、胃癌のリスクを減らす結果が報告されています。セレニウム摂取量の最も低いグループと比較して、セレニウム摂取量の最も高いグループでは、がんリスクが31%低下し、がんによる死亡リスクも45%低下しています。また、膀胱癌リスクは33%低下し、男性の前立腺癌リスクは22%低下している報告もあります。その他、セレニウムパン酵母で200 µg/日のセレニウムを6年間摂取すると、前立腺癌リスクが52~65%低下することがわかっています。

 

心血管系疾患

セレンを含むセレノプロテインは脂質の酸化の防止、炎症低下、血小板の凝集の防止の効果があります。このため、セレニウムの補給が心血管疾患リスクや心血管疾患による死亡リスクを低下させる可能性を示唆しています。血清セレニウム濃度が高いと、高血圧リスクや冠動脈疾患リスクが減る結果が示されています。また、セレニウム濃度が低い人は冠動脈疾患のリスクが高いことがわかっっています。しかし、心血管系疾患予防目的でセレンを投与しても効果は認められないという報告もあります。セレニウム濃度と心疾患のリスクや心臓死のリスクとの間に、統計的に有意な関連が見られなかった研究や、セレニウム高値が心血管系疾患のリスクの増加と関連するとの結果となった研究もあります。このため、心血管系疾患では体内のセレン濃度が予防に役立つ期待はありますが、正確な効果は不明です。

 

筋炎

セレン欠乏では心筋および骨格筋において筋炎、筋痛症が報告されています。セレンの不足で酸化ストレスが増大することで、転写因子として働くタンパク質複合体であるNF-κBが活性化され、NF-κBの活性化を介して炎症反応が原因と考えられています。鳥類においてもセレン欠乏症である筋異栄養症では、セレン欠乏によるNF-κBの活性化を介しての筋における炎症反応が原因とされています。

 

甲状腺疾患

甲状腺ではセレニウム濃度が高く、また、ヨウ素と同様に、セレニウムも甲状腺ホルモンの合成や代謝に重要な働きをしています。血清セレニウム濃度が高いと甲状腺の体積、甲状腺腫リスク、軽度のヨウ素欠乏症患者における甲状腺組織の損傷リスクが低下する報告があります。ただし、統計的に女性でのみ有意な結果となっています。甲状腺ペルオキシダーゼ抗体を持つ女性は、妊娠中に血中サイロキシン濃度が低下しやすく、出産後は甲状腺機能障害や甲状腺機能低下症を起こしやすい傾向があります。妊娠中の甲状腺機能低下症の臨床試験では、産後甲状腺炎の低下に効果がある治療法とされています。

 

更年期障害

セレンが減るとが女性ホルモンの分泌が低下することが知られています。このため、セレンの不足は女性ホルモンのバランスを乱し、更年期障害や生理不順の原因となる可能性があります。

 

性機能障害

セレンは精子を作る際の活性もとになります。精子細胞にはセレンの含有量が多いことが報告されています。また、精液中のセレンの濃度が高いと精子の数も多いことが報告されています。このため、セレンの不足は不妊症の原因になる可能性があります。

 

成長障害・発育不全

セレンを含むセレノプロテインの脱ヨード化酵素は、甲状腺ホルモンの代謝や活性化全般を担っています。このため、セレンの不足は脱ヨード化酵素の不足に伴う甲状腺ホルモンの代謝が正常に機能しなくなり、新生児の発育遅延につながる可能性があります。

 

細胞性免疫障害

セレンが関与するグルタチオンペルオキシダーゼが働くと、免疫と抗炎症作用が向上します。グルタチオンペルオキシダーゼは、リンパ球のヘルパーT細胞を刺激して活性化させる働きがあります。このため、セレンが不足すると細胞性免疫障害になる可能性があります。

 

認知機能

血清セレニウム濃度は加齢に伴って低下するため、抗酸化活性が低下することにより脳機能が低下する可能性があります。ただし、セレニウムの補給がアルツハイマー病を予防するかについて判断するには、これまでの臨床データでは不十分です。

 

克山病(ケシャン病、クーシャン病)・心筋症

セレン欠乏では心筋症が報告されています。克山病は心筋症の一種で、克山病の主要な症候は、心臓を弱らせる心筋壊死を引き起し、うっ血性心不全、心臓突然死、不整脈などの症状がみられます。克山病はセレン欠乏を主とする栄養障害が原因で発症すると考えられています。

 

カシン・ベック病

カシン・ベック病は、軟骨組織の変性と壊死を引き起こす萎縮をもたらす病気です。このため、成長期の子どもの骨端軟骨の変性や関節の腫張が起き、特に手首、肘、膝、足首の関節に変形をきたして、痛みと関節の可動域の制限、身長の伸びが止まることがあります。カシン・ベック病の原因としてフルボ酸やフミン酸の過剰摂取が考えられています。フミン酸やフミン酸にはセレンの吸収を阻害し、甲状腺ホルモンの代謝を低下させることが研究で示唆されています。カシン・ベック病はセレンを摂取することで進行を止めることが研究で確認されています。

 

 

セレンの摂取基準については必須ミネラル-セレン(セレニウム)の機能・役割と食事摂取基準を確認してください。

セレンの過剰摂取については必須ミネラル-セレン(セレニウム)の過剰摂取による副作用(過剰症)を確認してください。

 

 

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