年齢を重ねると、食べる量が減ったり、体重が落ちたり、歩くのが遅くなったりします。こうした変化が重なって、体や心の働きが弱くなった状態を「フレイル」と呼びます。フレイルは早めに気づいて食事や運動を見直せば、元の状態に戻れる可能性がある段階です。
この記事では厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)の「高齢者」の章と、厚生労働省のパンフレット「食べて元気にフレイル予防」をもとに、フレイルと栄養の関係、高齢者が気をつけたい栄養素の量、毎日の食事のとり方を説明します。
フレイルとは
フレイルは、年齢とともに体の予備の力が落ち、病気やけがなどの健康障害を起こしやすくなった状態です。英語の frailty(虚弱)から来た言葉です。健康障害には、介護が必要になること、入院、日常の動作ができなくなることなどが含まれます。
日本ではフレイルを「自立している状態」と「要介護状態」の中間にある段階と考えています。フレイルには元に戻れる部分があり、早めに対策をとることで進行を防ぎ、健康な状態に戻れる可能性があります。
体のフレイルを見分ける5つの項目
体のフレイルの判定には、米国のフリードらが示した基準が広く使われています。次の5つのうち3つ以上が当てはまるとフレイル、1〜2つならフレイルの手前(プレフレイル)とします。
- 体重が減った
- 疲れやすいと感じる
- 日常の活動量が減った
- 歩く速度が遅くなった
- 筋力(握力)が落ちた
フレイルは体だけの問題ではありません。物忘れなど認知機能の衰え(認知的フレイル)、人との付き合いや外出が減ること(社会的フレイル)、かむ・飲み込む力など口の働きの衰え(オーラルフレイル)も、フレイルの一部として考えられています。
サルコペニアとフレイル・サイクル
サルコペニアは、年齢とともに筋肉の量が減り、筋力や歩く速さなどの身体機能が落ちた状態です。サルコペニアはフレイルを起こす代表的な状態で、2つは互いに影響し合います。
食事摂取基準(2025年版)は、低栄養とサルコペニアが悪い循環をつくる流れを「フレイル・サイクル」として示しています。栄養が足りないと筋肉が減り(サルコペニア)、筋力や歩く速さが落ちて疲れやすくなります。体を動かす量が減ると使うエネルギーも減り、おなかがすかなくなって食べる量が減ります。その結果、さらに栄養が足りなくなります。
この循環を断つには、十分に食べることと、体を動かすことの両方が大切です。
高齢者に低栄養が起こりやすい理由
食事摂取基準(2025年版)は、高齢期の食事で問題になるのは、肥満だけでなく、やせや低栄養(エネルギーや栄養素が足りない状態)でもあると指摘しています。太っている人でも、栄養が足りていないことがあります。
高齢者の低栄養には、次のようにさまざまな原因があります。
| 原因の種類 | 例 |
|---|---|
| 暮らしの状況 | 一人暮らし、介護する人がいない、孤独感、貧困 |
| 心の状態 | 認知機能の低下、うつ、むせることや窒息への不安 |
| 加齢 | においや味を感じにくくなる、食欲の低下 |
| 病気など | 臓器の病気、炎症やがん、痛み、入れ歯など口の問題、薬の副作用、かむ・飲み込む力の低下、日常の動作の低下、下痢や便秘 |
| その他 | 食べやすい形になっていない食事、栄養についての思い違い |
※食事摂取基準(2025年版)「高齢者」の章の表1をもとに、言葉をわかりやすく言い換えています。
やせに注意:高齢者の目標BMIは21.5〜24.9
体格の目安には、体重(kg)を身長(m)で2回割ったBMIを使います。食事摂取基準(2025年版)では、65歳以上の目標とするBMIを21.5〜24.9 kg/m²としています。50〜64歳の目標(20.0〜24.9 kg/m²)より下限が高くなっています。高齢期には、やせや低栄養による健康への悪い影響が指摘されているためです。
BMIとフレイルには、低すぎても高すぎてもフレイルが多くなる「U字」の関係があります。また、高齢者の一部では、太り気味の人のほうがその後の経過がよい現象(肥満パラドックス)が見られることもあります。
厚生労働省のパンフレットは、高齢期のやせは肥満よりも死亡率が高いとして、65歳を過ぎて病気でもないのにやせてきたら、メタボ予防からフレイル予防に切り替える時期かもしれないとしています。たとえば身長166cm・体重56kgの人はBMIが約20.3で、21.5未満のため特に注意が必要です。やせてきたと感じたら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。
※背中が曲がって身長が縮んだ人や、むくみがある人では、BMIが実際の栄養状態を正しく表さないことがあります。BMIだけで判断せず、体重の変化もあわせて見ることが大切です。
目標BMIと年齢別の必要なエネルギーは、1日に必要なカロリーは?年齢・性別・活動量別の早見表と目標BMIで詳しく紹介しています。
高齢者が1日に必要なエネルギー
年齢とともに、体が使うエネルギーは減っていきます。食事摂取基準(2025年版)によると、1日に使うエネルギーは60歳前後から減り方が目立つようになります。主な理由は、筋肉などの量が減って基礎代謝が下がることです。
高齢者の推定エネルギー必要量(体重を保つのに必要なエネルギーの量)は次のとおりです。
高齢者の推定エネルギー必要量(kcal/日)
| 年齢 | 男性 | 女性 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 低い | ふつう | 高い | 低い | ふつう | 高い | |
| 65〜74歳 | 2,100 | 2,350 | 2,650 | 1,650 | 1,850 | 2,050 |
| 75歳以上 | 1,850 | 2,250 | ― | 1,450 | 1,750 | ― |
※低い・ふつう・高いは身体活動レベルです。「ふつう」は自立している人、「低い」は自宅にいてほとんど外出しない人に当たります。高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている人にも「低い」の値を使えます。
※日本人の食事摂取基準(2025年版)の表をもとにしています。
フレイル予防で大切な栄養素
食事摂取基準(2025年版)を作る過程では、フレイルと栄養素の関係が検討されました。その結果、ふだんの食事で摂れる量で、栄養指導によってフレイルの改善が見込まれることがはっきりしている栄養素は、たんぱく質だけでした。複数の栄養素がフレイルの発症や悪化の主な原因であるという根拠は乏しい、とされています。
つまり、特定のサプリメントでフレイルを防げるわけではありません。まずは、エネルギーとたんぱく質を十分に摂ることが基本になります。
たんぱく質
たんぱく質は筋肉の材料です。高齢になると、食事でたんぱく質を摂ったあとに筋肉がつくられる反応が鈍くなります(同化抵抗性)。そのため高齢者は若い人より多くのたんぱく質を摂らないと、筋肉がつくられにくいと考えられています。
食事摂取基準(2025年版)では、高齢者のたんぱく質の量を次のように定めています。
高齢者のたんぱく質の食事摂取基準
| 年齢 | 推奨量(g/日) | 目標量(%エネルギー) | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 女性 | ||
| 65〜74歳 | 60 | 50 | 15〜20 |
| 75歳以上 | 60 | 50 | 15〜20 |
※推奨量は、ほとんどの人が必要量を満たす量です。目標量は、1日のエネルギーのうちたんぱく質から摂る割合の目安です。
※身長・体重が小さい人や、特に75歳以上で体を動かす量が大きく減った人など、必要なエネルギーが少ない人では、目標量の下限が推奨量を下回ることがあります。その場合でも、推奨量以上を摂ることが望ましいとされています。
目標量をグラムにすると、たとえば65〜74歳の女性で推定エネルギー必要量が1,850kcalの人では、1,850kcal×15〜20%÷4kcal=約69〜93gになります。推奨量(50g)より多い量です。食事摂取基準(2025年版)は、フレイルやサルコペニアの予防を考えると、推奨量より多く摂ることが望ましいとしています。
たんぱく質の量とフレイルの関係を調べた研究には、次のようなものがあります。
- 日本の地域に住む高齢者の研究では、1日に男性48g以上、女性43.3g以上のたんぱく質を摂っている人は、それより少ない人に比べてフレイルのリスクが低いと報告されています。
- 日本の高齢女性2,108人の調査では、たんぱく質を多く摂っている人ほど、フレイルと判定される人が少なくなっていました。
- 欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)は、健康な高齢者に、体重1kgあたり1日に少なくとも1.0〜1.2gのたんぱく質を摂ることを勧めています。
ただし、これらの多くはある時点の状態を比べた調査(横断研究)です。複数の研究をまとめた報告でも、たんぱく質を多く摂るほどフレイルになりにくいという結論がある一方で、研究の間で一致した見解は得られていません。
また、たんぱく質を多く摂るほど筋肉が増え続けるわけではありません。体重1kgあたり1日約1.6gを超えても、筋肉などの量はそれ以上増えなかったという報告があります。長い期間たんぱく質を摂りすぎると、腎臓の働きに悪い影響が出る可能性も指摘されています。
たんぱく質の働きや年齢別の量は、たんぱく質の働きと1日の摂取量は?推奨量・目標量の表と摂りすぎ・不足の影響とたんぱく質と病気の関係は?フレイル・腎臓病・糖尿病・脳卒中と摂る量の目安で詳しく紹介しています。
ビタミンD
ビタミンDは、骨をつくるのを助けるほか、筋肉の細胞の成長にも関わっています。高齢者の研究では、血液中のビタミンDの濃度が低い人ほど、身体機能や筋力が低く、転倒や骨折、フレイルのリスクが高いことが報告されています。
一方で、ふだんの食品からビタミンDを摂ってフレイルが改善するかどうかは、まだ十分に分かっていません。ビタミンDは日光を浴びると皮膚でもつくられるため、食事の影響だけを調べるのが難しいことが理由のひとつです。
食事摂取基準(2025年版)では、65歳以上のビタミンDの目安量(不足しない量の目安)を男女とも9.0µg/日、耐容上限量(これ以上摂ると健康障害のリスクが高まる量)を100µg/日としています。サプリメントで多く摂る場合は、耐容上限量を超えないよう注意してください。詳しくはビタミンDの働きと1日の摂取量は?目安量・耐容上限量と日光でつくられる仕組みをご覧ください。
そのほかの栄養素
フレイルとの関係がはっきりしているのはたんぱく質ですが、高齢者はほかの栄養素も不足しないようにすることが大切です。食事摂取基準(2025年版)の高齢者の主な値は次のとおりです。
高齢者の主な栄養素の食事摂取基準
| 栄養素 | 65〜74歳 | 75歳以上 | ||
|---|---|---|---|---|
| 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
| カルシウム 推奨量(mg/日) | 750 | 650 | 750 | 600 |
| ビタミンD 目安量(µg/日) | 9.0 | 9.0 | 9.0 | 9.0 |
| 食物繊維 目標量(g/日) | 21以上 | 18以上 | 20以上 | 17以上 |
| 食塩相当量 目標量(g/日) | 7.5未満 | 6.5未満 | 7.5未満 | 6.5未満 |
※日本人の食事摂取基準(2025年版)の表をもとにしています。
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フレイルを防ぐ食事のとり方
厚生労働省のパンフレット「食べて元気にフレイル予防」は、必要な栄養素をまんべんなく摂るために、次の3つのポイントを挙げています。
- 1日3食しっかり食べる
- 1日2回以上、主食・主菜・副菜を組み合わせて食べる
- いろいろな食品を食べる
主食はごはん・パン・麺類、主菜は肉・魚・卵・大豆料理、副菜は野菜・きのこ・いも・海藻の料理です。たんぱく質は主に主菜から摂れます。パンフレットは、高齢になるほどたんぱく質を含む食品をとることが大切だとしています。
料理をするのが大変なときは、市販の総菜や缶詰、レトルト食品、配食のお弁当を使ってもかまいません。主食・主菜・副菜がそろった配食のお弁当なら、手軽に組み合わせることができます。
かむ力や飲み込む力が落ちると、食べられるものが減り、低栄養につながります。入れ歯の調子が悪いときは歯科を受診するなど、口の健康にも気を配りましょう。
食事と一緒に体を動かす
食事摂取基準(2025年版)は、筋肉を保つには、たんぱく質(アミノ酸)を摂ることと、運動、特に筋肉に負荷をかける運動(レジスタンス運動)を組み合わせることが大切だとしています。栄養が足りない状態で運動だけをすると、かえって筋肉が減ることがあります。
厚生労働省のパンフレットは、フレイル予防の3つの柱として「栄養」「身体活動」「社会参加」を挙げています。今より10分多く体を動かすこと、趣味やボランティアなどで外出することも、フレイルの予防につながるとしています。
フレイルの気づきのサイン
厚生労働省のパンフレットでは、「おいしくものが食べられなくなった」「疲れやすく、何をするのも面倒だ」「体重が以前よりも減ってきた」といった変化があれば、フレイルかもしれないとしています。
パンフレットに載っている質問票には、次のような食事や体の変化を尋ねる質問があります。
- 1日3食きちんと食べているか
- 半年前に比べて、固いもの(さきいか、たくあんなど)が食べにくくなったか
- お茶や汁物などでむせることがあるか
- 6か月間で2〜3kg以上の体重減少があったか
- 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思うか
- この1年間に転んだことがあるか
当てはまる項目があるときは、かかりつけ医や、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談してみましょう。
病気のある人・薬を飲んでいる人の注意
- 腎臓病の人は、たんぱく質を制限するよう指導されていることがあります。フレイルが心配でも自己判断でたんぱく質を増やさず、主治医や管理栄養士に相談してください。腎臓病の食事は腎臓病(CKD)の食事で気をつけることは?塩分6g未満、ステージ別たんぱく質の目安とカリウム・リンの注意で紹介しています。
- 糖尿病などで食事のエネルギーを制限している人も、体重が減ってきたら主治医に相談してください。
- ビタミンDやカルシウムのサプリメントは、薬との飲み合わせや摂りすぎに注意が必要です。使う前に医師や薬剤師に相談してください。
- 思い当たる理由がないのに体重が減ってきたときは、早めに受診しましょう。食事摂取基準(2025年版)は、病気や薬の副作用も低栄養の原因になるとしています。
まとめ
- フレイルは、体や心の働きが弱くなり、介護が必要になる手前の状態です。早めに対策をとれば、元の状態に戻れる可能性があります。
- 高齢者は肥満だけでなく、やせと低栄養に注意が必要です。65歳以上の目標BMIは21.5〜24.9です。
- フレイルの改善が見込まれることがはっきりしている栄養素はたんぱく質です。高齢者のたんぱく質の推奨量は男性60g/日・女性50g/日で、フレイル予防の面からはそれより多く摂ることが望ましいとされています。
- 1日3食、主食・主菜・副菜をそろえて、いろいろな食品を食べることが基本です。食事に加えて、体を動かすことと外出することも大切です。
- 腎臓病などで食事の制限を受けている人は、主治医や管理栄養士に相談してください。
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